事故物件に住んだ友人の話。
これは事故物件に住んだ友人の話。
類は友を呼ぶ、と言うのだろうか。
私の大学時代の友人、遥♀は少しベクトルの違う方向にポジティブシンキングな人間だ。
ポジティブに生きてるとラッキーな事がわさわさと舞い込んで来そうだが、遥に至ってはアンラッキーが頻繁に舞い込んで来る。
彼女はブランド物のサングラスを買った際、嬉しくてそのサングラスをかけたままソファーに横になり寝落ちした。目が覚めるとサヤが根元から折れていたらしい。
しかし彼女は「マドラー欲しかったんだよね!オシャレじゃない?」と眼鏡のサヤをマドラーにしようとしていた。ほんと好き。
そんな遥が引越した。
彼女は一人暮らしで、仕事で昇級したのを機にオシャレなデザイナーズマンションに引越した。
引越し祝いを名目に、同じ大学時代の友人である藤原♂と遥の新居に集まる事になった。
日程も決まり何時に集まるかLINEグループで話し合っていた時、遥が妙な事を言い出した。
「あ、うち変なの居るかもだけど気にしないでね!気にしなかったら大丈夫だから!」
本当に妙な事言うね〜〜〜。めっちゃ気になるし俄然行きたくなくなった〜〜〜。
心霊スポットNGな私は、絶対おばけでしょ。変なのと言えばおばけでしょ。と思ったが、いや虫かも。少し天然な遥の事だから虫を変なのと例えてるのかもしれない。だとしたら尚更行きたくない。
この世で1番怖いものは虫だ。誰が何と言おうと虫なのだ。
私は色々と推理をし返信に困っていた。
藤原「変なのって何?幽霊って事?」
バチクソ確信を突いてきた。いいぞ。
遥「そうそう!よく分かんないんだけど事故物件なんだよね!でも大丈夫だよ!」
何が大丈夫なの????よく分からない上に事故物件だけど大丈夫なの??マジで??てか今よりいい家に住もうと引越したのが事故物件ってどういう事??
藤原「まじかwww楽しみしてるわ!とりあえず15時に〇〇駅改札前集合でいい?」
藤原よ、楽しみにするな。草生やしてこの話終わりにするな。話を進めるな。
速攻遥に電話をして本気で行きたくない事を伝えたが、「本当に何もないから大丈夫だって〜!住んでる私が言うんだから!」となだめられた。ポリポリ音がしたので絶対遥はプリッツ食べながらなだめていた。
泣きそうになったが、久々に集まる3人だし、遥の家を心霊スポット呼ばわりするのもいかがなものかと思い渋々行く方向に気持ちを持っていく他無かった。
当日、駅で合流した私達3人は近くのスーパーでお酒やおつまみを買い込み遥の家に到着した。
道中で事故物件の詳細について聞いたが「何か自殺したらしい。家賃は他の部屋より格安。」というふんわりした情報しか得られなかった。
普通自分が住んでる所が事故物件だったらもうちょっと調べない??気にしなさ凄くない??
部屋に入ると思った以上のデザイナーズ感。お洒落なこの部屋が事故物件とは到底思えない。しかしビビらずには居られない。
私はお酒の入ったビニール袋を置く時の「ドンッ」という音にビクゥゥッッ!!!となっていた。
2人に笑われながらひとまず新居祝いという名の家飲みが始まった。
お酒が入ると恐怖もそこそこ薄れてきて、互いの近況や思い出話で盛り上がっていた。
私はトイレに行きたくなり、遥にトイレ貸して〜と声をかけ立ち上がった。
遥「あ、トイレ、大丈夫だから気にしないでね!」
ねぇもうやめて〜〜〜大丈夫と気にしないでってワードもう禁止〜〜ちょっと忘れかけてたのにやめて〜〜
そんな事を言われたら何も大丈夫じゃないので無理矢理遥をトイレに付き添わせドアの前で待っててもらった。
ドア越しに遥が「大丈夫って言ってるのに〜!」と言うので、「じゃあ何で気にしないでって言ったのー?!」と聞くと
遥「いや、何かトイレしてると時々タンクの中からガタガタ音がするんだよね!」
私は高速でトイレットペーパーを巻き取り一切の音が聞こえないよう「あー!!あー!!!!」と叫びながら速攻で水を流して飛び出した。
音だけだから大丈夫だってwwと笑う遥に、おバカッ!!と半泣きで怒る私はチャック開けっぱなしだった。
そっとチャックを閉める事で少し冷静になった私は遥とリビングに戻り、事の次第を藤原に話した。
藤原は「え、何か他にも不思議な話無いの?」と笑っていた。
んー、何でこの2人は笑ってるのかしら?怖いと言う概念は皆無かな??私は何でこの2人と仲が良いの??その不思議について話合わない??
これは完全に怖い話の流れになると思い、好きな第三のビールについて話し合おうと提案したが却下された。ちなみに私は金麦が好きです。
ここで断っておきたいのだが、私は怖い話自体は好きだ。近々怪談イベントにも行く。めっちゃ楽しみ。
ただ、今自分が居るこの場所についての怪談話は別だ。自分とは無関係の怪談だからヒューこわ〜い!と聞けるものなのだ。
遥「んー…いつも寝落ちしそうになると足の裏に息吹きかけられるんだよね。」
始まった〜〜〜今自分が居るこの場所についての怪談話始まった〜〜〜家帰って関ジャニクロニクル観たい〜〜〜
藤原は、それは幽霊じゃなく妖怪じゃないのかと笑っている。いや確かにそんな妖怪いそうだけどさ。
よくよく聞くと、TVが勝手に消える、玄関からラップ音がする、お風呂に入っていると設定温度が変わる、顔を洗っていると肩を叩かれる事があるetc…
出るわ出るわ。よう出るわ。この子よ〜出しますわ。
てかさ、遥気にしなければ大丈夫って言って無かった??ハイパーレベル高くない??それ絶対気にしない方が無理じゃない??
さすがの藤原もビビってるだろうと思ったが、「霊が居る場所で手を叩くと音が響く」と、チンパンジーのオモチャのようにパンパン両手を鳴らしていた。
しまいにはノッてきて「いよぉ〜〜!(パンッ!)」と合いの手まで入れていた。お隣さんに迷惑です。やめなさい。
そんな藤原を見て遥はケラケラ笑っていた。
よし、解散。
遥は「泊まっていけばいいのにー!」と言ってくれたが、足の裏に息を吹きかけられたくないとハッキリお断りして帰宅した。
遥は今でもその事故物件に住んでいる。
そして変わらず「気にしてないから全然大丈夫だよー!」と笑っている。
ポジティブに生きるとは、図らずとも強く生きていけるのである。