おやすみ世界

すぐ忘れるアラサー備忘録。忘れないように、こんな事あったなぁと思い出した事をつらつらと書いております。

初めての後輩の話。

これは私が出会った会社の後輩の話。


私は大学を卒業し、とある会社に営業として入社した。

1年が経つと自動的にまた新卒の後輩たちが入社してくる。


その会社は支社も全国展開している大きな所で、職種柄体育会系な雰囲気であったが、私の営業部は女性が多い事もあり、いわゆる「女の園」であった。


あの人とこの人がほんとはバチバチで、あの部署のあの人とこの人とその人があんなんだからそんなんで、というようなちょっと皆一旦落ち着いてお願いだから意味がわからない。というような感じだった。


しかしそこはみんな大人でなんだかんだ表面上は上手くやっていたし、私自身苦手な人は居たが、個人的に話すとそれなりにいい人達で不思議と皆と上手くやっていけていた。

というかこいつはただのポジティブバカだから害が無いと何の警戒もされていなかったんだと思う。ぐうの音も出ない。


(ちなみにこの会社は中々のブラックだったので人の入れ替わりが激しかった。)


内定が決まると現場や営業、事務所に研修に来るシステムがあるので、今年の新入社員の顔は何となく把握していた。


そして入社日、うちの支社に所属する新入社員達が一列に並び、朝礼で自己紹介をする。


ん???誰??何か知らん子おるぞ。

明らかに年上っぽい男の子。たまたま私が休みの時に研修に来てたのかな…?


その子は森という名前でうちの営業部に所属するらしい。中途採用や部署異動で男の人が来ることはあったが、新卒で男の子が採用されるのは珍しく、ちょっとザワザワしていた。


私は隣に居た仲の良い先輩、秋山さん♀に「あの森君って子、研修に来てました…?私見た事ないんですけど…」と聞いた。

秋山さん「全然知らない。てか私全員顔覚えてないから誰も分からない。」


好きだわ〜〜秋山さんのそのクールな所めちゃくちゃ好きだわ〜〜


ちなみにこの秋山さんはうちの営業部のトップセールスウーマンで、美人でクールだが実は面倒見が良く大好きで慕っていた。


そこに大先輩のおじ様中村さん♂が会話に入って来た。

「ねぇ、あの男の子さ、現場志望で入って来たんだけどどうにもこうにも使えなくて、最終的に女の人が多い所なら周りがなんとかサポートしてくれるだろう、ってうちに配属されたらしいよ。」


中村さん、この人は誰よりも勤務年数が長くほぼ全ての部署を経験しており、役職について上司になっていても全然おかしくないのだが、とある理由で責任問題を問われ昇格の道を閉ざされた人だ。その問題も中村さんは悪くないんだけどね…

しかしその事もあって、周りの人間(特に上層部)からはナメられており、事あるごとに標的にされていた。


中村さんはめちゃくちゃ優しく楽しい人で、私は秋山さんと中村さんが大好きだった。秋山さんと中村さんと私、この3人はよくつるんで仕事を越えても仲が良かった。


朝礼中に3人でヒソヒソやっていたので、主任にやかましいと叱られ私はしゅんとした。

秋山さんと中村さんはまだヒソヒソやっていた。すごい。


ともあれ仕事が始まり、新入社員は先輩の営業に同行しイロハを学ぶ。

私は基本的にお昼にオススメの美味しいご飯屋さんを教えていた。


聞いた所、森君は私より3つ年上で、今まで社会人経験は無く、スーツを着たくないという理由で現場(現場は作業着)の面接を受けたが中村さんの話の通り仕事が出来なさすぎてとりあえずうちの部署に回されたそうだ。

スーツ着る仕事だけど大丈夫???


その話題の男の子森君が私の同行に着くことは無く、深い会話もしていないのでしばらくしてもどんな子かよく分からないままだった。


しかし森君が同行に着いた先輩達は「ありゃダメだ。営業向いてないよ。」と口を揃えて言っていた。

確かにPC作業は教えても教えても覚えないし、メモ取らないし、やめなさいと言っても「うっす」と返事をする子なのでいつか大失敗しないかとヒヤヒヤする事はあった。


そんな森君は私の3年先輩の田村さん♀の営業によく同行していた。田村さんは仕事は出来るが少しクセのある人で男の子には超絶優しい人だった。ちなみに女の子にはめちゃ厳しい。


1ヶ月程経った頃、営業から田村さんと森君が帰って来た。

「疲れた〜!田村さんジュースジャンケンしようよ!」

おおおおーーう???どうした森〜〜!!!タメ口か??それはタメ口というものか???


田村さんがブチギレないかビビったが

「じゃあ3回先に勝った方が勝ちね!」と笑顔だった。なんでだよ。怒れよ。3回もジャンケンするんじゃないよ。


年齢でいうと田村さんと森君は同い年だが会社ではそういうの関係なくない…?いや、仲良くなったなら別にいいけどあんたまだ入社1ヶ月だからね…?


すかさず秋山さんが「森、田村は先輩なんだから会社では敬語使いなさい」と注意していた。森君は「うっす」と答えていた。やめろ。


時は流れ秋が過ぎた頃、森君は相変わらず仕事も敬語も出来なかった。基本的に何かしらやらかし、やべ〜〜とニヤニヤしていた。どれだけ教えてもらっても怒られても変わらなかったので逆にすごいと思った。

彼の同期達はそこそこ広い営業エリアを持たされていたが、森君は1つのエリアの担当と未だ先輩の同行をしていた。


ある日仕事を終え帰る準備をしていると、窓の外から声が聞こえてきた。

外を見ると仕事終わりの秋山さんと中村さんが営業車を洗車していた。

そして肌寒い中ホースで水を掛け合ってはしゃいでいた。


めちゃくちゃ楽しそう。でもこのままだとうるさいと主任に怒られそうなので、事務所まで声聞こえちゃってますよ、あと私も混ぜてください。と言うため外に出た。


3人で水を掛け合う事で声は3倍になった。

ホースの口を指でいい感じに塞ぎスプリンクラー作戦で私が先輩2人に水をかけていると突然後ろから声をかけられた。


「ちょっと〜〜〜中村さ〜〜〜ん」


森君だ。営業から戻ってきた森君がやれやれみたいな顔をして立っていた。

何時に戻ってきてんの…みんなもう帰ろうとしてるけど…


森君はつかつかと中村さんに近寄り、

「中村さんが取ってきた見積もり、これ全然ダメじゃないっすか〜〜。今日現場見てきたんすけど、あの広さじゃ絶対作業員の人数足りないし半日作業とか全然無理っすよ〜。」


私は固まった。

多分この子は中村さんが取ってきた大きめの案件を、何事も経験だから!と好意で森君と一緒に進めているあの案件の見積もりの事を言っている。


「俺研修で現場やってたんで分かるんすけど、あれじゃ無理っすよ。もっと作業する人間の事考えてもらわないと中村さんの取ってきた仕事誰もやりたがらないっすよ?本当中村さんは現場の事分かってないっすよね〜〜。」


終わった。森君は終わった。何故なら今から私がブチギレるからだ。


「森ぃぃいいー!!!!お前誰に口聞いてんだよ!!!!!!!」


私と中村さんはビクッとなった。

そう、秋山さんがブチギレたのである。


秋山さんは森君の真後ろに止まっていた営業車を拳で叩き、森君の逃げ場を無くした。

後の壁ドンである。


「中村さんは現場経験が1番長いんだよ!!お前みたいなペーペーがどの口で中村さんの見積もりに文句つけてんだ!?あぁ!?中村さんの案件は現場の人間も信頼してんだよ!!!!お前は何を知ってんだよ!!!」


クールビューティーが鬼と化した。姉さんめちゃくちゃ怖い。しかし秋山さんの言っている事は最もなのである。

中村さんは現場経験が長く、現場と営業の双方の気持ちが分かるため、現場で働く人間からの信頼も厚い。そして見積もりも勿論完璧なのだ。


さっきまでヘラヘラしていた森君の顔がこの世の終わりみたいな顔をしている。

そこで私と共に固まっていた中村さんが「ま、まぁ、ね、分かったから。一旦見積書見直すからとりあえず森君事務所戻って。」と口を開いた。


森君は「はい…すみません…」と足早に事務所に入って言った。


そして中村さんは「中村さん!!何で自分で言わないの!!あんなのにナメられたら終わりだよ!!」と秋山さんに叱られていた。


その後私も事務所に戻って見積書を見てみたが完璧だった。むしろ何故森君がこの見積もりに文句をつけようと思ったのかマジで分からなかった。


主任に「秋山の怒号が聞こえたけど何かあったの?」と聞かれたので「森君の事です。」と答えると「あぁ。」と納得していた。


その数ヶ月後、私はその会社を退職した。辞めることは前から考えていたし、秋山さんと中村さんには相談していたがいざ辞めるとなると2人がめちゃくちゃ寂しがってくれてちょっと嬉しかった。


私も2人と離れるのは寂しかったが、会社の体制がボロボロだったので2人も1年しないうちにその会社を辞めた。


今でも秋山さんと中村さんとは時々ごはんに行くのでこの話は毎回話題にあがり、笑い話になっている。森君はトラウマになっていないか心配だ。彼は今何をしてるのかな。「うっす」って目上の人に言ってないかな。


そんな森君は私の送別会でも色々やらかしてくれたし、秋山さんはクールビューティーな逸話がまだまだあるのでその話はまた今度。